為替相場決定論の前提①【カバー付金利平価】

為替相場の決定論に関連するものとして金利平価という理論がある。

これは、各国における金利差が金利裁定取引を通して為替相場を左右するという理論で、カバー付金利平価とカバーなし金利平価の2つがある。

本稿では、カバー付金利平価の理論を説明する。

カバー付金利平価(CIP)

カバー付金利平価は、投資家はリスク回避型であり、金利裁定取引を行う際に先物為替予約を行い、為替変動のリスクを回避することを前提する理論です。

金利裁定取引

金利裁定取引とは、両国における金利差を利用して利益を得る取引のことです。

たとえば、金利が以下のようである場合、

  • 日本・・・1%
  • 米国・・・5%

日本で資金調達を行い、米国で運用すると4%の金利差を利得できる。

ここで、直物為替相場を現在も1年後も1ドル=100円として100万円運用したとする。日本では100万円を1%の金利で借りるので1年後の返済額は、100万円×(1+0.01)=101万円となる。一方で、米国で運用した元利合計は1万ドル×(1+0.05)=1.05万ドルになる。これを日本円に換えて日本での返済を済ませると結果として105万円ー101万円=4万円の利益が残る。この4万円が裁定利益です。

ただし、この利益は直物為替相場の変動をなしと前提した時の利益であって、現実には為替変動を考慮する必要がある。たとえば1年後の為替相場が円高に振れてしまい1ドル=90円になってしまうと、1.05万ドルを円に戻したときに94.5万円になって、日本での返済額101万円に対して損失が出てしまう。このように為替取引を挟んだ金利裁定取引には為替相場の変動リスクが付随してしまう。

この為替変動リスクを取りたくない投資家は、ドルの先物売り予約で取引満期日における為替相場を事前に確定しておく。つまり、金利裁定取引を行うときに先物為替予約を行い為替変動リスクを回避するのです。これをカバー付金利裁定取引という。(先物取引でリスクをカバーしてるからカバー付)

黒野
カバー付金利裁定取引なら、将来の為替取引の相場を事前に決めておけるので確実に利益が出せるわけです。(為替リスク0)

ということは、この取引が行われた場合、直物為替相場では円売りドル買いが発生して円安ドル高になる。一方、先物為替相場ではドル売り円買いが発生して円高ドル安となる。

  • 直物為替相場・・・円売りドル買い→円安ドル高
  • 先物為替相場・・・ドル売り円買い→円高ドル安

当然、この動きは金利差による裁定利益がなくなるまで続く。裁定利益がなくなる所とは、円換算した時の日本での資金調達にかかる元利合計と米国での資金運用にかかる元利合計が一致する状態です(返済額=終価額となる値)。そしてこの時の為替相場の理論値がカバー付金利平価の理論値となるわけです。

カバー付金利平価

上述のようにカバー付金利裁定取引は為替リスク0で確実に利益が取れる取引です。

したがって、裁定利益がなくなるまで取引が行われると考えるのが妥当であり、この時の金利、直物・先物為替相場は一定の関係が成り立つといえます。

黒野

実際、こうした金利裁定は機関投資家によるアルゴリズム取引によって瞬時に行われるので基本的には一瞬(1秒未満)にして裁定利益は解消されます。

ここで、運用金額X円、調達金利r、運用金利r*、直物為替相場S、n年後の先物為替相場Fとして日本での調達コストと米国で運用した元利合計を定式化してみると、まず日本での調達コストは

\[X\cdot(1+r)^n・・・①\]です。つまり、\(X(1+r)^n\)円がn年後の返済額です。

そして、米国で運用の元利合計は、

\[X\cdot\frac{1}{S}(1+r^*)^n\cdot F・・・②\]です。つまり、\(\frac{X}{S}(1+r^*)^n\)ドルが米国の元利合計でそれを日本円に換える時には先物為替相場で決定していたレートFをかければ円になるというわけです。

日本での返済額は日本での元利合計だから、①>②なら日本で運用した方が良くて、①<②なら米国で調達して日本で運用した方がいいことになる。この時、両者の差額(①−②or②−①)が裁定利益です。そうした取引の結果為替取引の需給に影響して直物・先物為替相場が変動し、①=②になるところで取引は均衡するわけです。つまり、

\[X\cdot(1+r)^n=X\cdot\frac{1}{S}(1+r^*)^n\cdot F\]この両辺をXで約分すると、

\[(1+r)^n=\frac{1}{S}(1+r^*)^n\cdot F・・・③\]

の関係が成り立つことになる。これがカバー付金利平価条件です。

さらに③式の両辺を自然対数に置き換えると、

\[n\cdot ln(1+r)=n\cdot ln(1+r^*)+lnF-lnS\]となる。ここで、n=1年として、さらに内外金利差と直先為替差が10%未満であれば、テイラー展開から自然対数は一次近似できるから、\[ln(1+r)≒r\quad,ln(1+r^*)≒r^*\quad,ln\left(\frac{F}{S}\right)≒\frac{F-S}{S}\]と置き換えられ、

\[r≒r^*+\frac{F-S}{S}・・・④\]となる。この式の左辺は日本の金利、右辺は米国の金利と直物と先物のスワップ取引による自国通貨の減価率(直先スプレッド率という)です。つまり、日本で運用した収益率と米国で運用した収益率が同じである状態です。ここでは全ての変数が確定している前提なので確定した収益率の均等化を意味しており、為替リスクとは無縁である点に注意です。

式④を変形すると、\(r-r^*≒\frac{F-S}{S}\)となる。よって、二国間の金利差は直先スプレッド率に等しいことがわかる。

そして、すべての投資家がリスク回避型と前提すればカバー付金利平価が成立する。

黒野
自然対数については以下の記事で詳しく解説してます。
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カバー付金利平価の実際

カバー付金利平価はある程度、成立するようになっている。

横内(2020)によると、日米の金利差ー直先スプレッド率を検証した結果、1981年頃からは±1%の範囲内に収まっており、さらに1990年代に入ってからはその範囲が狭まっている。

ただし、現実的にはカバー付金利平価は以下の要因から成立しないことがある。

  • 取引費用
  • 政治的リスク
  • 金融市場間の税率格差

また、政府によって外貨建て資産の取引が制限されている場合も成立しない。このような制限はキャピタル・コントロールという。

キャピタルコントロールがあると金利裁定の機会があっても解消されないままの状態が継続する。

この観点からカバー付金利平価の成立は資本の完全可動性(キャピタルコントロールなどの障壁がない)と解釈されることもある。

藤井(2013)によると、先渡取引が発達した先進国の通貨に関しては、カバー付金利平価条件が常時成立しており、資本はほぼ完全可動的であると知られている。

さらに投資家がリスク中立的であると仮定した場合、カバーなしの金利平価という考え方がある。それは以下の記事にて説明してます。

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参考文献

・横内正雄,2020『国際金融論1』法政大学

・藤井英次,2013『コア・テキスト国際金融論』第2版,新世社

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