為替相場の変動メカニズムと相場制度の基礎【国際金融】

為替相場とは、外国為替市場における相場のことであり、その決定は通常の市場の価格決定メカニズムと同様です。

つまり、需要と供給から為替相場が決定されます。

以下では、為替相場の決定と変動メカニズム、そして固定相場と変動相場とは何かについてみていきます。

為替相場の決定と変動メカニズム

外国為替市場では自国通貨と外国通貨の取引が行われます。

この時の交換比率が為替相場であり、たとえばドル円なら「1ドル=100円」というように表現されます。

ここでの需要と供給は、ドルに対しても円に対しても見ることができて、それぞれ反対方向になります。

ここではドルに対する需要と供給で考えていきます。

ドルにおける需要と供給から考える

ドルに対する需要とは、円売りドル買いを指します。(ドルを買う側で考えるとわかりやすい)

それは、円高になると1円で買えるドルの金額が多くなるので比例して増加すると考えられます。

一方で、ドルに対する供給とは、円買いドル売りを指します。(ドルを売る側で考えるとわかりやすい)

それは、円高になると1ドルで買える円の金額が少なくなるので比例して減少すると考えられます。

円安は、それぞれ逆の動きになりますのでまとめると以下の通りです。


為替相場の変動に対する需給の反応

  • 円高・・・ドルの需要↑、ドルの供給↓
  • 円安・・・ドルの需要↓、ドルの供給↑

そしてこれらをグラフで表すと、ドルの需要はこのように右下りの曲線で表され、

ドルの供給はこのように右上がりの曲線になり、

これらの交差する点で価格(為替相場)が決定されます。

ここでは、1ドル=100円に決定されます。このように需要と供給が為替相場を決定しています。

なお、ここでは市場における需給の値はそれぞれ所与のものとして為替相場決定メカニズムにのみ焦点を当てています。

黒野
需要と供給そのものの原因については別の理論が必要になります。

為替変動のメカニズム

今まで見てきたのは、それぞれの曲線上の動きでした。

ただし、曲線上の動きだけでは為替相場が変動する仕組みを説明できません。なぜなら価格が均衡点に達した時点で需給が一致し、変動しなくなるからです。

ですが現実には常に変動を続けています。これは、需要や供給そのものの水準が変化する=曲線がシフトすることが原因です。

つまり、曲線上の動きではなく、曲線そのものが左右にシフトした場合に相場が変動するのです。

たとえば、ドルの需要が増加した場合、需要曲線は右方へシフトします。その結果、均衡点が右上に移動し、為替相場が上昇、取引量増大となります。これはドルが増価したことを意味します。(自国通貨は減価)

為替相場制度について

変動為替相場制度

変動為替相場制度(Floating Exchange Rate System:変動相場制)は、名目為替相場の決定が外国為替市場における外貨の需給に委ねられ、それに応じて相場が自由に変動するものである。

引用:横内正雄,2020『国際金融論1』法政大学,p.76

たとえば、外国為替の需要が増加すれば、円安になり、外国為替の供給が増加すれば、円高になる。

このように純粋に外国為替の需給によって相場が決定されるものを変動相場制といいます。

固定相場制度

変動相場制度に対して、為替相場の変動を全く許さないか、あるいは一定の狭い幅の中に変動を抑える為替相場制度を固定為替相場制度(Fixed Exchange Rate System:固定相場制)と呼ぶ。

引用:横内正雄,2020『国際金融論1』法政大学,p.76

この制度は、名目為替相場の基準となる水準を設定し、外貨の超過需給に対して、政府や中央銀行が無制限に介入することでその水準に維持するものです。厳密には完全に固定化する場合と、ある程度の幅を設けてそのレンジ内に抑える場合があります。

たとえば、外貨の需要が相対的に増加した場合、通常は自国通貨安に推移するが、中央銀行が外貨の超過需要に対して外貨の供給を増やす(ドル売り円買い)をおこなうことで為替相場を目標の水準に維持します。

このように為替介入によって、ドル円相場が維持されています。

ただし、それぞれの曲線が右方へシフトしており、それによって取引量が40億ドルへ増加しています。この供給の増加分の担い手が中央銀行です。

このことから、固定為替相場を維持するためには外貨準備が必要であることがわかり、仮に外貨需要の増大に対して外貨準備が不足すれば固定相場の維持は困難であるといえます。実際に固定相場の崩壊は発生しています。

為替介入が必要となる場面としては、外貨需要の減少と増大、外貨供給の減少と増大があり、それぞれの対応をまとめると以下の通りです。


介入のパターン

  • 外貨需要の減少・・・需要を増大させる介入(ドル買い円売り)
  • 外貨需要の増大・・・供給を増大させる介入(ドル売り円買い)
  • 外貨供給の減少・・・供給を増大させる介入(ドル売り円買い)
  • 外貨供給の増大・・・需要を増大させる介入(ドル買い円売り)

ポイントは、為替介入はアプローチ対象に対して増大させることしかできない点です。円安・円高に対してどう介入するかだけで判断するのは簡単ですが、需給の曲線のシフトを考えて取引量・為替相場の動きを判断しようとすると若干ややこしくなります。

こうした固定相場制度は為替リスクが除去されることで対外取引が円滑になるというメリットがあります。

ただし、横内(2020)によれば、為替介入のみによって為替相場を安定させることは、資本移動が自由に行われている現代においては困難であり、資本移動規制などを実施する必要があるとしています(pp. 77-78)。

別記事で解説しますが、為替介入は市場取引量に対して数%程度の割合しかなく、効果は限定的です。

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前回の記事で為替相場の制度を解説しました。[sitecard subtitle=関連記事 url=https://notosi.net/exchange-rate-system/ target=]そこで固定相場制では為替介入[…]

黒野
短期的にインパクトを与えることは可能ですが、中長期的には効果は薄いです。

なお、固定相場のことをペッグ制ともいいます。ペッグとは釘付けするという意味で、ある水準で固定することをペッグすると言ったり、特定の外貨に合わせる時もたとえば「ドルにペッグする」と言ったりします。

為替相場制度のバリエーション

為替相場制度は、為替相場の決定を市場に委ねるかどうかによって、大きく固定相場制と変動相場制に分けられます。

ただし、これらはあくまで基本方針としての大きな枠組みであり、実際の運用方法には多様なバリエーションが存在します。

以下では、固定相場から順に変動相場にかけて運用方法の分類を挙げます。(IMFによる分類を筆者が日本語に意訳or名付けしています)


為替相場制度の種類

  1. 独自通貨不採用制度(No separate legal tender)
    自国通貨をもたず、特定の外国通貨を公式通貨として使用。
  2. カレンシーボード制度(Currency board)
    自国通貨を外貨に100%裏付けし、為替相場を厳格に維持。
  3. 標準的固定相場制度(Conventional peg)
    為替相場を特定の通貨や通貨バスケットに固定し、為替介入で維持。
  4. 安定管理制度(Stabilized arrangement)
    Floatingではないが、為替相場を変動幅±2%で安定している場合。
  5. クローリング・ペッグ制度(Crawling peg)
    為替相場を固定させつつ、段階的に増加・減価させていく。
  6. クローリング調整幅を伴うペッグ制度(Crawl-like arrangement)
    クローリングペッグに変動幅を設けたもの。
  7. 変動幅付き固定相場制度(Pegged exchange rate within horizontal bands)
    為替相場を固定させるが、一定の変動幅を許容する。
  8. 裁量介入を伴う変動相場制度(Floating)
    為替相場の決定を市場に委ねつつ、過度な乱高下に対しては介入し安定を目指す。
  9. 自由変動相場制度(Free floating)
    Floatingよりも介入が稀。
  10. その他の管理された為替制度(Other managed arrangements)
    その他の管理型為替制度。

引用:International Monetary Fund


1,2が固定相場制度(Hard peg)、3〜7が中間的制度(Soft peg)、8,9が変動相場制度(Floating)として区分されています。

ただしこれは最新の分類で、以前の分類ではfloatingの8と9は独立フロート制度として同じ分類で扱われていて、テキストなどでは独立フロートとして書かれる場合があり注意が必要です。(先進国は独立フロートが広く採用されているというのが一般的です。)

また経済学における区分として、

  • クリーン・フロート
    相場を完全に市場に委ねる状態
  • 管理フロート
    変動抑制のための介入がある状態
  • ダーティ・フロート
    特定の経済目標(輸出競争力、インフレ抑制など)を意図した介入がある状態

というのもあります。

黒野
考え方としては、固定相場制と変動相場制を両極端な原則と捉え、その間にさまざまな運用方法が位置づけられると理解すると分かりやすいでしょう。

為替相場制度の選択

為替制度には多様な種類がありますが、どの制度が優れているのでしょうか。

結論としては、「どれが優れているかは状況・目標により異なる」です。

藤井(2013)によれば、変動相場下における名目為替レート・実質為替レートの不安定な変動は国際金融、国際貿易のリスクを増幅し効率的資源配分を困難にする側面がある一方、市場メカニズムを活用し経済厚生を高めるべきでもあり、変動・固定相場のどちらが好ましいかは国によって異なる(pp. 235-236)。

国際金融の観点から、為替相場の安定は望ましいです。しかし、変動相場制は市場メカニズムによる価格調整機能を通じて為替相場が経済状況に適応し、国境を越えた効率的な資源配分を促進します。たとえば、変動相場制では通貨安が輸出を増やし、貿易赤字を自動的に是正する効果が期待できます。

それぞれの国の立場から見れば、新興国ではインフレ懸念や信用力に低さなどから固定相場、特にドルなどにペッグすることが自国にとって有益です。ただし、固定相場はその維持が困難であることや、国際金融のトリレンマの問題も生じます。この問題については以下の記事で解説しています。

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こうしたことから、それぞれの国が自国に適した制度を選択することになります。

補論『市場は効率的なの?』

補論を表示する
市場の価格調整機能は効率的な資源配分をもたらすと言えるのは、価格変動がそれぞれの国のマクロ経済指標を反映するからです。ただし、藤井(2013)は、変動相場下における短期的な為替変動は、相当部分がマクロ経済の重要変数の変化に起因するものではないとしています(p. 250)。つまり、マクロ経済指標とは関係ないランダムな為替変動が実際には多く、これは効率的な資源配分を妨げるといえるでしょう。

参考文献

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