経済学で出てくるネイピア数と自然対数。
これを分かりやすくまとめます。
これらの概念は地味に使えるので覚えておくと便利です。
ただし、ここでは経済学上必要となる知識のみを抽出して説明します。
ネイピア数e
ネイピア数eとは自然対数の底にあたる定数です。
これは円周率と同じように無限に計算できるけど代数的に説明できない超越数です。
ネイピア数の意味(経済学で必要なところのみ解説)
ネイピア数は複利計算を無限に細かくすると出てきます。
つまり、\[\lim_{n\to \infty}\left(1+\frac{r}{n}\right)^n=e\](ただし、r=年間の金利)
このように表せる。たとえば、年利100%(r=1)だった場合は、
\[\lim_{n\to \infty}\left(1+\frac{1}{n}\right)^n=e\]となる。
これは、年1回の金利が100%(年利100%)つく場合、それを年2回、3回、と無限に増やして複利計算してみたらどうなるかを表してます。
そうして無限に分割すると、元利合計がe倍になる!
この計算は無限に繰り返すことができ、nを増やしていった極限値がeになります。(収束する無限級数)
つまり、nを無限に増やすとeという値(2.71828…)に収束していくわけです。
表にするとこんなイメージ↓
それは言い換えると、連続複利の最高値(極限値)がeであるといえる。
つまり、限界まで小分けにして得られる最大利益の倍率はe倍であり、それ以上はどんな方法でも増やせない天井ってこと!
自然対数
自然対数とは、eを底にした対数のことでln(x)のように表します。
つまり、\[ln(x)=log_e(x)\]
これは、eを何乗すればxになるかを表しています。
そもそも対数って何?
まず、対数は指数の逆のことをしているものです。
じゃあ指数は何をしているかっていると、指数は「底となる数を何回掛け合わせるかを示す記号」です。
たとえば、自然数のときは「an」ならnが指数で、aという底の数をn回掛けるってこと。(ただし指数が、0や負の数、少数などは考え方が異なる)
じゃあこの逆をするってことは、何回掛けたらこの数になるかを示すってこと!
aを底とするnの指数関数が\[y=a^n\]であるならば、対数関数は、\[n=log_a(y)\]
表で表すとこんな感じ↓
自然対数とは
さて、自然対数とは底をネイピア数eに設定した対数関数です!
これは言い換えると、ある正の実数はネイピア数eの何乗で表せるかを求める関数。
たとえば、10の自然対数はen=10なので、これを満たすnを求めればいい。
でもこれを解こうと思うと大変。
そこでnの値を「ln(10)」という記号で表しただけなんです。
ちなみにこの「ln」は「loge」の略記です。すなわち、\[ln(10)=log_e(10)\]です。これでこの章の冒頭の式の意味が理解できたはず。
経済学にどう役に立つの?
ここまでネイピア数、自然対数をざっくり解説したけど、じゃあ実際に経済学にどう役に立つのか疑問だと思います。
そもそもネイピア数の結論として
ネイピア数eは、「変化の速さが今の量に比例する」ような現象、例えば利子や人口増加などで自然に現れる数字。
実は、そういった自然な変化を最もスムーズに表すために、「微分しても形が変わらない指数関数」を探すと、その底がeになるんです。
だから、eを使った指数関数は微分・積分しても形がそのままで、計算もすごくしやすい。
結局、ネイピア数は連続的な成長や変化に関連する関数の基準値みたいな存在ってわけです。
だからその基準を使って、複雑な計算を簡単に行えるようにして理論モデルを出しやすくしてるってこと!
たとえば複利計算では、時間の経過とともに変化率(傾き)が関数の値に比例して変化していく。この変化をすべて微分して細かくみようとすると、膨大なデータが必要になってしまう。
でも、ネイピア数eを底にした指数関数(たとえば f(t) = e^t)なら、微分してもその形が変わらず、傾き(変化率)がそのまま関数の値になる。
つまり、どの時点でも「今の量=変化率」って状態が保たれるから、それをもとに理論(公式)を構築するなら細かいデータが必要ないわけです。
あとは、その公式を使えば現実の複雑な変化もシンプルに計算できる、ってイメージ!
自然対数をとると変化率が対照的に表現できる!
変化率って\[\frac{\text変化後-\text変化前}{\text変化前}\]だけど、これだと変化前と変化後の変化率の数値と変化後から変化前になった数値が異なってしまう。
この性質で何が問題になるかというと、例えば株価の変化率を見たときに、100円から200円に上昇したときの変化率は100%だけど、200円から100円に下落したときの変化率は50%と同じ金額の増減に対して変化率の数値は非対称になってしまう。だから少しややこしい。
ところが、対数(log)の性質でこの変化率を対数の差として表すことができる。
\[ln\left(\frac{a}{b}\right)=ln a – ln b\]
てことは、上昇した対数差の数値と、下落したときの対数差の数値は対照性をもつことになる。
100円→200円のときの対数差はln200-ln100=ln2、200円→100円のときはln200-ln100=-ln2となりわかりやすい。
しかも!変化率が小さいとき(具体的には10%以下程度)ならテイラー展開から対数差≒変化率となる。
変化率が小さいときは、\[ln(1+r)≒r\]が成り立つ。
なぜかというと変化率が小さいときは傾きが1に近くなる。つまり直線に近くなり、自然対数の値と近似するからです。
経済学の変数って大体10%未満なので自然対数がそのまま理論値の計算に利用しやすいわけです。
補論「なんでln200-ln100=ln2になるの?」
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通行人A おかしいよ!なんでln200-ln100=ln2になるの?ln100じゃないの?黒野 わかるよ。確かにln2になるのは直感的にわかりにくいよね。でも確かにln2になるんだよ。後述しますが、lnA-lnBは以下の性質があるんです。
\[lnA-lnB=ln\frac{A}{B}\]つまり、\[ln200-ln100=ln\frac{200}{100}=ln2\]になる。ln100になるというのはlnをそのまま引き算してしまっているから。でもln200ってのは対数なので元の数値はln(200)≒5.30、ln100は≒4.61これを引き算すると、0.69になる。そして0.69の自然対数はln2になる。つまり、ln同士の引き算は倍率を表している。
自然対数をとると計算が簡単に
自然対数をとるとあらゆる計算が簡単になる。
①掛け算は足し算になる。
たとえば、a×bは、ln(ab)にすると、
\[ln(ab) = ln a + ln b\]となり、足し算になる!
②割算は引き算になる。
\[ln\left(\frac{a}{b}\right)=ln a – ln b\]
③べき乗は係数になる。
\[ln(a^x)=x ln a\]
④ルートも指数として扱い、係数にできる。
ルートは、指数に変換できる。だから指数として扱い③に適用すると係数にできる。
\[ln(\sqrt{a})=ln(a^\frac{1}{2})=\frac{1}{2}ln a\]
このように複雑な計算を足し算・引き算に変えることでシンプルにできるし、さらに計算が和や差になるから直感的に理解しやすくなる。
ちなみに対数同士の差は元の数値同士の割り算(比率)だから、元の数値が何倍になったかが現れる。つまり増加のスケールがわかる。
しかも線形化もできるから統計手法でも都合がいい。
\[y=e^x\text{(これは曲線)}\]これを対数をとると、\[x=lny\text{(これは直線!)}\]直線になる!
とにかく、都合がいい(e)という数字なんですねこれが。