国際金融のトリレンマとは、以下の3つの政策目標は同時にすべて達成できず、3つのうち2つしか選べないという理論です。
- 自由な国際資本移動
- 名目為替相場の安定
- 金融政策の独立性
この問題はすべての国が抱える国際金融政策における問題で各国で対応が異なります。
本稿では国際金融のトリレンマについて説明し、各国の対応についてみていきます。
国際金融のトリレンマ
藤井(2013)によれば、国の通貨・金融制度に関して、政策の観点から望ましい事として以下の3つが挙げられます(p. 257)。
- 柔軟で効率的な予算配分の観点から、
→自由な国際資本移動 - 国際金融・貿易取引を促進させる観点から、
→名目為替相場の安定 - マクロ経済の安定化の観点から、
→金融政策の独立性
しかし、いかなる経済にとっても、これら3つの条件を同時に満たすことは不可能ということがわかっています。
これは解放マクロ経済の政策トリレンマ、または国際金融のトリレンマと呼ばれるものです。
全てが両立した場合の矛盾を考える
仮に、
- 自由な資本移動
- 名目為替相場の安定
- 金融政策の独立性
の3つを同時に追求したとします。
この場合、キャピタルコントロールが存在せず、固定相場制で、自国経済の物価や景気に応じた独自の金融政策が行われる国家が想定されます。
しかし、例えば自国が景気過熱や高インフレを抑制するために金利を引き上げると、海外から資金流入が発生し、自国通貨高が進行して固定相場制を維持できなくなってしまう。
つまり、キャピタルコントロールがなく、固定相場制を維持しながら、国内経済に即した独自の金融政策を実施しようとすると、資本流出入が為替に強い圧力をかけて、固定相場が維持できなくなるわけです。
どれか一つを犠牲にするしかない
国際的な資本移動を制限すれば、海外からの資金流出入を制限できて自国通貨の安定が達成できます。ただし、その場合は自由な資本移動を放棄することになる。
もし、名目為替相場の安定と自由な資本移動のどちらも取りたければ、自国に即し海外から独立した金融政策を放棄し、為替相場の動向つまり外国の経済・金融動向を見ながら金融政策をとっていく必要がある。それは金融政策の独立性を放棄することを意味します。
国際金融政策の選択
- 固定相場+金融政策の独立性→資本移動の制限
- 金融政策の独立性+自由な資本移動→変動相場制
- 固定相場+自由な資本移動→金融政策の放棄
このように国際金融政策においては望ましい政策3つのうち、どれか一つを諦める必要があるわけです。それに応じて政策の組み合わせが決まります。
各国の選択
アメリカ
アメリカは「資本の自由」と「金融政策の独立性」を重視しており、為替相場は変動制です。これによりFRB(連邦準備制度理事会)はインフレや景気動向に合わせた金利政策を自由に運用できます。
ユーロ圏(EU)
ユーロ圏諸国は通貨統合により固定相場制(共通通貨)を選び、資本の自由も維持しています。結果として、個々の国は独自の金融政策を放棄しています。ECBの政策が全体に適用されるため、各国の経済状況に合わない金融政策が行われるリスクもあります。
ユーロ圏に関しては以下の記事でトリレンマの観点から問題と課題を解説しています↓
中国
中国は長年、為替相場を管理しつつ、金融政策の独立性も維持してきました。そのために資本規制を強く敷いていました。ただし、近年は徐々に資本の自由化を進めており、トリレンマの中でバランスを模索しています。
新興国
新興国では、為替レートの急激な変動が経済に悪影響を及ぼすため、部分的な資本規制を導入しつつ、金融政策の独立性をある程度維持するケースが一般的です。しかし、グローバル化の進展により、完全な資本規制は難しくなっています。
参考文献
藤井英次,2013『コア・テキスト国際金融論』第2版,新世社