為替相場決定論の前提②【カバーなし金利平価】

前回の記事ではカバー付金利平価の理論を解説しました。

関連記事

為替相場の決定論に関連するものとして金利平価という理論がある。これは、各国における金利差が金利裁定取引を通して為替相場を左右するという理論で、カバー付金利平価とカバーなし金利平価の2つがある。本稿では、カバー付金利平価の理論[…]

今回はその続きで、カバーなし金利平価について解説します。

この理論は、先物為替でカバーをとらずに金利裁定取引が行われる場合の理論です。

つまり、投資家がリスク中立的であると仮定した場合や先物為替市場が存在しない場合などに成立するものです。

黒野
本記事では前回のカバー付金利平価の理論を理解してる前提で説明します。

カバーなし金利平価(UIP)

カバーなし金利平価は、投資家が先物為替を利用しない金利裁定取引を前提する。

そこで、カバー付金利平価で利用した先物為替相場Fの代わりに、投資家は将来の為替相場の予想にしたがって取引を行うものとする。この予想為替相場を\(S^e\)とする。

ここで、前回の記事に倣って日米の金利裁定取引を定式化してみます。

条件

  • 運用金額・・・X円
  • 調達金利・・・r
  • 運用金利・・・r*
  • 直物為替相場・・・S
  • 予想為替相場・・・\(S^e\)
黒野

ちなみに\(S^e\)のeはexpectedのeで予想値っていう意味合いの記号です。乗数ではないので注意。

まず、日本での調達コストは、

\[ X\cdot (1+r)^n円・・・①\]

米国で運用した予想元利合計は、

\[X\cdot \frac{1}{S}\cdot (1+r^*)^n\cdot S^e 円・・・②\]となる。前回同様、①>②、①<②の時は裁定機会が存在するので裁定利益が0になるところ、①=②になるまで裁定取引が行われる結果、以下の関係が成立する。

\[X\cdot (1+r)^n=X\cdot \frac{1}{S}\cdot (1+r^*)^n\cdot S^e \]

両辺をXで約分すると、

\[(1 + r)^n = \frac{1}{S} \cdot (1 + r^*)^n \cdot S^e ・・・②\]となる。この②式はカバーなし金利平価条件と呼ばれる。

さらに両辺に自然対数を取ると、

\[n \cdot \ln(1 + r) = n \cdot \ln(1 + r^*) + \ln S^e – \ln S ・・・③\]

ここで、n=1年として、さらに内外金利差と直物・予想為替差が10%未満であれば、テイラー展開から自然対数は一次近似できるから、

\[r ≒ r^* + \frac{S^e – S}{S} ・・・④\]

となる。この式の左辺は日本の金利、右辺は米国の金利と為替相場の予想変化率です。つまり、日本で運用した収益率と米国で運用した予想収益率が同じである状態です。

④を変形すると、\(r-r^*≒\frac{S^e-S}{S}\)となる。よって、二国間の金利差は為替相場の予想変化率に等しいことがわかる。

投資家がリスク中立的で為替相場の将来予想に基づいて金利裁定取引を行うならばこれが成立することになる。

カバーなし金利平価の意味

投資家がリスク中立的であった場合、将来の為替相場の予想が変動した時にどうなるか。

つまり、\(r-r^*≒\frac{S^e-S}{S}\)の\(S^e\)の値だけが変化するのだから、金利は一定とすれば、将来為替相場予測に合わせて現在の為替相場Sが変化することになる。

具体的には、将来の為替予想が円安になればその分だけ現在における金利裁定取引の利鞘が増えるから、金利裁定取引(円売りドル買い)が増える。よって、現在の為替相場が円安方向へ移動することを意味する。

結論として、投資家の為替相場の将来予測が現時点の為替相場を変動させるといえるのです。

もちろん、為替相場は金利の予想が変動しても変動する。だから金融政策の変更が現時点で瞬時に為替相場に影響を与えることを理論づけている。この関係は為替相場の近代理論の基礎になっているんです。

カバーなし金利平価が成立する場合

カバーなし利子平価の成立は、異なる通貨間での資産取引が全く自由、つまり資本が完全に可動的であり、且つ投資家にとって自国通貨建て債権と外貨建て債権が完全代替的であることを意味します。

引用:藤井英次『コア・テキスト国際金融論』第2版,新世社,p134.

この理論が成立してるということは、投資家がリスク中立的つまり為替リスクを一切考慮しない状態ってことです。

それは、収益率が同じであれば自国であろうが他国であろうが投資家は無差別であり、投資家にとってそれは完全代替物であることを意味します。(完全代替性の仮説)

黒野
自国であろうが、他国であろうが同じ商品であるとしてるわけです。いわゆるボーダーフリー。

ただし、実際はこれを前提にすることは現実との乖離を生む。

なぜならこの理論での取引が実際に行われるにしても、それが常に成立してるとは考えにくく、ブレが生じることが考えられるからです。

横内(2020)によれば、カバーなし金利平価が成立するかどうかは、将来の予想為替相場は実際の観察が困難であることから十分には実証できない。

円キャリー、FXとの関係

円キャリートレードやFXは、実はカバーなし金利裁定取引です。

もちろん、金融政策の変更など確定条件が変更された瞬間はカバー付金利裁定取引が行われますが、前回の記事で説明した通りそれは人間に知覚できる速度を超えて解消されるので、基本的には円キャリーやFXなどのトレードはカバーなしによる投機が大きな割合を占めていると考えられます。

しかし、カバーなし金利裁定取引が継続して行われているということは、カバーなし金利平価が成立していないともいえます。

なぜ、こうした取引が行われるのでしょうか。それは、すべての投資家がリスク中立的ではなく、リスク回避的な投資家が存在するということです。

そして、リスク回避的な投資家がカバーなし金利裁定取引を行うのはリスクプレミアムを要求しているからです。

つまり、基本的に無リスクの裁定機会はないけど、為替変動リスクを背負うことで裁定利益(カバーなし金利裁定の利益)が出せることを見込んだ取引なわけです。

このリスク回避的な投資家を前提としたリスクプレミアムの理論は別の記事で解説します。

黒野
逆に言えば、リスクがある取引なので必ず儲かるが存在しない取引といえますね。

参考文献

・横内正雄,2020『国際金融論1』法政大学

・藤井英次,2013『コア・テキスト国際金融論』第2版,新世社

広告
最新情報をチェックしよう!