日本はなぜ“半導体大国”から転落したのか?|データでたどる衰退の歴史

日本の半導体産業を深掘していこうシリーズ3回目の今回はとうとう最終回です。

第1回で半導体産業を分析するための基礎知識を解説し、第2回では日本の現状を確認しました。

第1回はこちら

現代において、半導体は生活・医療・産業などあらゆる分野に欠かせない資源となっており、「現代の石油」と呼ばれることもあります。日本半導体産業のパイオニアである牧本(2021)は、半導体は現代の高度情報化社会の根幹を支えるものであり、一[…]

第2回はこちら

日本の半導体産業を深掘していこうシリーズ2回目の今回は、日本の半導体産業の現状を統計データや他国との比較によって確認します。前回記事では、半導体産業を分析するうえで必要な基礎知識を解説しました。今回はその基礎知識を前提として[…]

そして最終回の今回は、日本の半導体産業の変化の歴史を統計データや他国との比較によって確認します。

日本半導体産業の変化(黎明〜衰退と現状)

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半導体産業黎明期(戦後〜高度経済成長期)

日本における半導体産業は、米国で発明されたトランジスタの技術を用いたトランジスタ・ラジオが1955年ソニー(当時は東京通信工業)から発売されたことから始まります。

従来のラジオは真空管が使われていましたが、トランジスタにすることで省電力・低価格・小型化が可能となり、この真空管からトランジスタへの転換はその他の民生用電子機器へ波及していきます。

そして1959年には、トランジスタにおいて世界最大の生産国となります。その結果、日本は民生電子機器分野において国際競争力を獲得し、世界を席巻していきます。

1970年代には産官連携でコンピュータ産業の振興計画が進められ、76年から始まる「超LSIプロジェクト」は半導体の川上産業である半導体製造装置産業や材料産業の育成に大きく貢献しました(牧本, 2021)。

こうした、川上・川下の両面の発展が川中である半導体デバイス産業の発展を後押しする形で日本の半導体産業は国際競争力を急速に高めていきます。

1980年時点では米国の半分以下のシェアしかなかった日本のシェアは88年で50%を超え米国に逆転します(図1)。これが米国との貿易摩擦につながります。

(出所)1980-2020:武者リサーチ, 2024『ストラテジーブレティン第351号』,(原データ, omdia)
2021-2024:SIA, 2023-2025『STATE OF THE U.S. SEMICONDUCTOR INDUSTRY』を基に筆者作成。

日米貿易摩擦と半導体協定

1970年代、メモリ半導体のDRAM(ダイナミック・メモリ)の集積度向上に伴ってコンピュータ分野での需要が拡大していくと同時に、日米両国のメーカーが半導体メモリの生産に注力していきます。

特に16キロビットの世代以降、日本から米国への輸出が拡大し、81年DRAM(64K)の世界シェアでは米国30.5%に対し、日本は69.5%を記録します(データ参照:牧本, 2021)。このようにDRAMが日本の半導体産業のシェアを牽引しました。

この大差の要因として牧本(2021)は、米国の半導体メーカーは専業メーカーであることが多く、オイルショックの影響で先行投資の余力が失われていた一方で、日本は総合電機会社の一部門であり先行投資の余力があった。また、品質・納期・価格面での評価も高く、メモリの設計技術やプロセス技術も日本が上回っていたとしています。つまり、日本の自社グループ内での垂直統合型という企業形態が強みとなっていたわけです。この背景には、民生電子機器との相乗効果が大きく、相補的に競争力を高めていきました。

実際、この時期の日本のDRAM需要は世界一(1986年で世界需要の4割ほど)であり、この国内需要の9割以上のシェアを国内企業が獲得、DRAM生産シェアも世界一でした(データ参照:牧本, 2021)

こうした事態から米国との貿易摩擦が発生し、1986年に以下の条項を含む「日米半導体協定」が締結されて10年間継続します。

  • マーケットアクセスの改善
    • 日本市場における海外製品のシェアを20%以上にすること。
  • ダンピング防止
    • DRAMとEPROMについて米政府が定める最低価格(FMV)を下回る価格での販売の禁止。

さらに、この直後の米国による報復関税もあって日本政府は半導体の海外製品使用を促進する三機関(INSEC、UCOM、DAFS)を設立し、国内半導体ユーザーへの行政指導を強化します。その結果、1991年には海外製品の国内シェアは18%程度、96年には28%程度と大幅に変化しました(データ参照:牧本, 2021)。また、この影響は米国に限らずDRAM参入直後であった韓国にもプラスに働き、シェアを落とす日本に対して、米国は下落が停止、韓国は上昇というように協定の影響が明確に現れています(図2)。

(出所)日経クロステック, 2014『電子立国は、なぜ凋落したか』(現データ:Gartner)を基に筆者作成。

特に韓国は、1998年に日本を抜いてトップシェアを獲得、シェアを奪われた日本企業はDRAM市場から撤退します。

このトレンドは現在まで続いており、2025年第2四半期で米マイクロンがDRAM世界シェア第3位、1位2位は韓国企業で世界シェアの7割を占めています(表1)。

表1 DRAM市場シェア企業ランキング(2025第2四半期)
(出所)Trend Force, 2025a『Press Center』

図1で示しているように日米半導体協定以降、半導体産業全体として日本のシェアの低下が続き、1988年の50.3%から2024年では8.2%と42.1ppも減少しました。一方、米国は1988年から13.6pp上昇して2024年に50.4%と完全に逆転し、日米シェアの差は42.2ppもの大差となっています。

黒野
ただし、日米半導体協定がトレンド転換の契機になったと指摘できるものの、日本のシェア低下の根本原因は他に見出せます。
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デジタル革命

日米半導体協定はトレンド転換の契機と評価できますが、日本のシェア低下の根本原因はデジタル革命に見出せます。

上述のように1970-80年代、垂直統合型の企業形態が日本の強みでした。

ところが、1990年代には民生機器分野が成熟と同時に、電子産業の主役として「デジタル技術」に基づくパソコンが登場します。このパソコンの事業形態は「水平分業型」でした。具体的には、MPU(マイクロプロセッサ)はインテル、OSはマイクロソフト、そのほかディスプレイや半導体も別の企業が供給するという形態であり、パソコンに限らずデジタル技術に基づく生産ではこうした水平分業が使われ始めました。

この構造転換への対応が遅れた日本の電子機器産業の国際競争力は低下していきます。

また、半導体のメイン市場もデジタル革命以降、家電製品からパソコン、近年ではスマホ・AIへと転換しますが前記事で示したようにこうしたハイテク機器産業において日本は世界に遅れをとっており、半導体の国内市場が減少し、海外市場へシフトすることになります。ところが、牧本(2021)によれば、日本企業は海外向けの製品企画、マーケティングの面が弱く業績が振るいませんでした。

そして、水平分業の形態は半導体産業(特にロジック)でもファブレス・ファウンドリ方式として規模を広げていきましたが、日本では垂直統合が継続されました。ただし、デジタル革命以降、製品ライフサイクルが急激に加速しており、こうした状況においては水平分業による専門性の高さ・経営判断の速度面がより有利に働くようになった。その結果、従来の日本の強みが弱みへと転換したのです。

ファブレス・ファウンドリ方式

ノエル
どうしてファブレス・ファウンドリ方式の普及がIDMの弱みになったのですか?
黒野
それでは、日本のIDMがファブレス・ファウンドリ方式に負けた理由とその優位性について確認してみましょう。

IDMでは各社が設計からパッケージングまでを独自で行います。その際、設計ツール・プロセス開発・パッケージは独自のものを使用するので、異なる企業間で製造されるデバイスの互換性は低い。この構造は、製品の差別化には寄与する一方で、開発コストやリスクを各社が単独で負担することを意味します。

一方、ファブレス・ファウンドリ方式の始祖TSMCは設計、前工程、後工程を水平分業化し、半導体生産の標準化を進めました。

TSMCは、主要な設計ツール開発会社(EDAベンダー)や回路設計データ開発会社(IPベンダー)と連携し、自社プロセスに最適化されたPDK(設計に必要なデータのプリセットのようなもの)を整備するとともに、動作が検証済みの回路設計データ(セル)を提供しました。

これにより設計者は数百種類のセルが集められたセルライブラリから自由に設計すれば動作確認済みの設計が行えるため、SoC(ロジック半導体)の開発リスクが激減しました。

SoCの開発は、投資規模が大きく、開発リスクが高いことに加え、近年では製品ライフサイクルの短期化により開発スピードも求められます。このような環境下では、設計から製造まで自社で抱え込むIDMは不利となり、ファブレス企業がTSMCに製造を委ね、後工程をOSATが担う分業体制が、特にロジック半導体分野で主流となりました。

TSMCはこのセルライブラリを中核とするエコシステムを構築することで、半導体生産のインフラともいえる存在になったのです。

こうして、デジタル革命以降の水平分業型への転換へ乗り遅れたことが日本の川下産業のみならず半導体産業自体の国際競争力低下につながったわけです。

また、湯之上(2023)は、日本DRAMの衰退要因として過剰品質を作り続けた点を指摘しています。製品ライフサイクルの短縮という状況において、適正品質を安価で大量生産した韓国のDRAMが有利となったのです。

AIの登場

2010年代後半以降、AI向け半導体需要は拡大しており、先端ロジックに加え、HBMなど先端メモリの需要拡大に大きく貢献しています。

しかし、先端ロジック分野(表2ではプロセッサに入る)では米国、メモリ分野では韓国がそれぞれ寡占状態であり、日本の半導体産業は、AI向け市場に遅れをとっています(表2)。

日本はイメージセンサやパワー半導体など特定分野では国際的な競争力を有している一方で、高い収益性を持つメモリ・ロジック分野では十分な競争力を確立できていないのです。この点は、半導体の売上高上位企業からも確認でき、上位10社が市場の約6割を占め、これらはインテルを除いてロジックまたはメモリを主力とする企業である一方、日本企業は1社も含まれていません(前回記事参照)。

表2 半導体種類別 主要企業(2025)
(出所)経済産業省, 2025『半導体・デジタル産業戦略の今後の方向性』
(注1)ここでは経済産業省の分類方法で示しているが、WSTSの分類では、ここでのプロセッサはロジックとマイクロ(大まかにはIntelがマイクロ、AMDはロジックとマイクロ)、マイコンはマイクロに分類される。

参考文献

牧本次生, 2021『日本半導体復権への道』ちくま新書.

湯之上隆, 2023『半導体有事』文春新書.

経済産業省, 2025『半導体・デジタル産業戦略の今後の方向性』https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/joho/conference/semicon_digital/0014/handeji14-4.pdf(参照:2026.1.24)

武者リサーチ, 2024『ストラテジーブレティン第351号』https://www.musha.co.jp/short_comment/detail/351(参照:2026.1.17)

日経クロステック, 2014『電子立国は、なぜ凋落したか』https://xtech.nikkei.com/dm/article/COLUMN/20131225/324816/(参照:2026.1.18)

SIA(Semiconductor Industry Association), 2023『STATE OF THE U.S. SEMICONDUCTOR INDUSTRY2023』https://www.semiconductors.org/wp-content/uploads/2023/07/SIA_State-of-Industry-Report_2023_Final_072723.pdf(参照:2026.1.18)

SIA(Semiconductor Industry Association), 2024『STATE OF THE U.S. SEMICONDUCTOR INDUSTRY2024』https://www.semiconductors.org/wp-content/uploads/2024/10/SIA_2024_State-of-Industry-Report.pdf(参照:2026.1.18)

SIA(Semiconductor Industry Association), 2025『STATE OF THE U.S. SEMICONDUCTOR INDUSTRY2025』https://www.semiconductors.org/wp-content/uploads/2025/07/SIA-State-of-the-Industry-Report-2025.pdf(参照:2026.1.18)

Trend Force, 2025a『Press Center–2Q25 DRAM Revenue Jumps 17.1%, SK hynix Expands Market Share as Taiwanese Vendors Deliver Strong Growth, Says TrendForce』https://www.trendforce.com/presscenter/news/20250902-12694.html(参照:2026.1.18)

Trend Force, 2025b『Press Center–2Q25 Foundry Revenue Surges 14.6% to Record High, TSMC’s Market Share Hits 70%, Says TrendForce』https://www.trendforce.com/presscenter/news/20250901-12691.html(参照:2026.1.22)

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